この記事はボドゲ紹介 Advent Calendar 2021の1日目のために書かれたものです。
並行してボドゲ紹介2nd Advent Calendar 2021も実施されています。
まだまだ枠が開いていますよ。今がチャンスだ!

なお、以下ではミレニアムブレードのカード・デッキ構築・ゲーム進行に関するネタバレを含みます。
自らの力でデッキ構築の道を切り開きたいという野心的なミレニアムブレーダーは閲覧に注意が必要です。

(以下の記事では、カード名を選択するとカードの詳細にジャンプします)

はじめに

今年もミレニアムマスターズリーグ(MML)の季節がやってきた。
今年、2121年は、我らがミレニアムブレード日本語版の基本セットが一般頒布されてから実に100年という歴史的な年であった。
そのため、MMLは趣向を凝らし、プロツアーに限定戦のフォーマットを用意した。

このフォーマットでは、使用できるのはミレニアムブレード基本セット(日本語版・2021年版)のカードのみ。
ルールやカードの裁定は2021年当時のものを採用。
したがって、手札やプレイエリアの枠に残りがなくともトップ効果は発動し続けるし、持続効果は得点効果処理中も原則として働き続けるという、2121年現在のルールとは異なる環境での戦いになった。

それ以外は通常のMMLと同様のルールである。
したがって、ドラフト3回戦ののちにスタンダード7回戦。
合計5勝5敗以上のプレイヤーのみが2日目にコマを進め、チャンピオンの座を賭けて死闘を繰り広げることになる。
ドラフト・スタンダード共にキャラクターカードなし、初期デッキランダム、プロプレイヤープロモカードなし、清算モードのいたってシンプルなルールだ。

本記事ではこの MML 2121 の限定戦の環境についてまとめることにする。
すなわち、この記事の中では、2021年の日本のミレニアムブレードの環境を追体験できるようになっている。
ミレニアムブレーダーたちが基本セットのみを用いて戦う際の助けになれば幸いである。

(編集者注:本記事はフィクションです。)

なお、デッキリストはプラニング・オーダー、フィールドはクリアーリザルト方式である。
駆け出しのミレニアムブレーダーに示しておくと、プラニング・オーダーとは(アルファベット順や☆順ではなく)プレイする順で示されたデッキリストのことである。
また、クリアーリザルト方式とは得点計算後の盤面を、裏向きのカードを斜めにして示す方式のことである。

(編集者注:2121年に広く使用されているであろう用語です。2021年段階では私しか使っていません。)


《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》

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メタゲームの中心はいつだって《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》だった。

☆6以上のプレイ効果及びリバース効果以外の全ての効果を封殺するバーニザードは数々のコンボデッキを焼き払ってきた。
基本デッキのカードゆえに全ゲームで採用される可能性があるため、プレイヤーたちはバーニザード対策を強いられることになる。
端的に言って、バーニザード対策がないデッキはデッキとは呼べない環境だったのだ。

バーニザードデッキの多くは初ターンで《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》をプレイし、アクションやちょこまかと言った手法で《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》をトップに固定し続ける。
したがって、トーナメント中ずっとバーニザードの脅威にさらされるわけだ。

この環境では、大まかに言って2種の方法が取られていた。
即ち、裏返し対策か、ウィニー戦術を採用するかである。

裏返し対策は、アクセサリーで行われるのが一般的だ。
《カードスリーブ》等でキーカードを安全に着地させた後は、《記念フィギュア》などでキーカードを守り続けるのである。
他にも、☆6以上のカードを採用する際はプレイ効果やリバース効果を使うことを前提に採用するという対応もあった。
バーニザードの効果はプレイ効果解決後に解決されるため、《トリアージナース イリヤ》などの優秀なプレイ効果は発動が可能なのだ。

ウィニー戦術による対策は、その名の通りウィニー(低☆シングル)を用いて行われる。
バーニザードの対象外となる☆5以下のカードを中心にデッキを組み上げれば、バーニザードによるロックを気にせずにデッキを回せるのだ。
この対策方法では、全てのカードが☆6以上であるプロモカードを戦術の核に組み込めなくなるが、プロモのコスト分のカードを構築に回せるという利点もあった。

バーニザードデッキ側もその点は把握しているが、デッキの大半はアクション効果持ちor位置変更効果持ちで埋められているため、タッチできる戦術はそう多くない。

その中で人気があったのは、《大提督 デュアーステン》をデッキに入れて置き、デッキケース・アクセサリーを見て初手に出すカードを決めるデッキであった。
デュアーステンはプレイ効果全般を咎める効果でを持っており、バーニザードとは異なる方向での妨害を行うことができる。
しかも、バーニザードへの対策として強力なプレイ効果に着目したデッキが環境に多く存在したため、あまりにも有用な回答たりえたのだった。


【バーニザードコントロール】サンプルレシピ

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初ターンは基本的に《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》をプレイし、《クトニオスカード祭壇》をバーニザードに着ける。
後はアクション効果を連打して、バーニザードのトップ効果を毎ターン有効にして相手の盤面に蓋をするだけだ。

アクション効果を持つカードは、RPを得られる量が多いカードを上から詰め込んでいる。
バーニザード対策が進んだ環境では、強力なプレイ効果やリバース効果で直接RPを得るデッキが主流となっていた。
そのため、バーニザードでロックをかけた後にRPを得る手段を用意しておかなければ、RPレースで後塵を拝することになってしまうのだ。
しかも、バーニザードデッキは、RPを得る手段のほとんどがアクション効果に限定される。
したがって、その強力さに比例するかのように構築難度も高く、十分にRPを得られないようであればバーニザードデッキを使わない判断をする必要もあった。
使い手の力量が色濃く反映されるデッキだったのである。

このレシピではオーソドックスなバーニザードコントロールを軸に、《プロタ・ゴ・ニズト》《大提督 デュアーステン》を加えて対応力を上げている。
アグロデッキやウィニーデッキには《大提督 デュアーステン》でのプレイ効果封殺狙うと共に、《プロタ・ゴ・ニズト》でRP得点力を上げるのが目的である。
この目的で《プロタ・ゴ・ニズト》または《大提督 デュアーステン》でスタートした場合でも、《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》はアクション効果を持っているため、ロックの疎外をしない。
それどころか、(裏返し対策はないとはいえ)トーナメント中に《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》をトップに置くことで、一時的にロックの方向性を切り替えることさえ可能であった。
このロックの切り替えこそがバーニザードデッキの対応力の高さを物語っており、多くの玄人たちがこのデッキを好む理由でもあった。

デッキケース候補は複数あるが、《壊れたワンダーランド》を採用した型が多く見られた。
《壊れたワンダーランド》は自分の全てのシングルが裏向きの場合に50RPという、この環境のデッキケースでは最上級のRPを得られるというものだ。
一見、初ターンにプレイされた《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》が表向きで残ってしまうため条件を満たせないように思えるが、《クトニオスカード祭壇》とのコンボによって条件を満たすのだ。
得点効果は、シングルエリアの左から右、デッキケースエリア、アクセサリーエリアの順で行われる。
この処理順を有効に使い、《クトニオスカード祭壇》の「このカードがカードについている場合、このカードとそのカードをゲームから取り除く」という効果で《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》と共にゲームから取り除き、その後に《壊れたワンダーランド》の処理をするというオシャレなコンボなのだ。
通常《クトニオスカード祭壇》はそのデメリットに目が行き《記念フィギュア》などが優先されるが、このコンボのために敢えて採用されているのである。

もう一枚のアクセサリー枠には《影の領域へのチケット》の採用が多かった。
《影の領域へのチケット》の「トーナメント終了時」という文言は「得点処理前」を意味するため、得点効果発動前に相手のカードを除去することが可能なのだ。
したがって、環境に多く存在した《守護されがたきエグザルティウス》や強力な得点効果主体のデッキのキーカードを、その効果を処理させることなく処理できたのだ。

このように、☆の高いデッキ、プレイ効果デッキ、得点効果デッキと幅広く対応できるバーニザードが環境を席巻していたのは、ある意味必然と言えよう。

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《守護されがたきエグザルティウス》

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ロマン効果の筆頭《守護されがたきエグザルティウス》
その効果の派手さには古今東西のプレイヤーたちが惹かれ続けてきた。
それは当然、大きな大会の場でも変わることはない。

実は、《守護されがたきエグザルティウス》は、達成だけならそこまで難しくはない。
問題は、エグザルティウスに求められる2点の課題をクリアしつつエグザルティウスの条件をクリアすることである。
即ち、「裏返し対策」と「RP得点力」である。

裏返し対策は主にバーニザードデッキへの対策である。
《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》はトップ効果以外にアクション効果でこちらのカードを裏返そうとしてくるため、《カードスリーブ》1枚では十分ではない。
したがって、恒久的に自分のプレイエリアを守れるような盤面が必要となる。
多くのミレニアムブレーダーは《プロタ・ゴ・ニズト》の等の「自分以外を守れるカード」に《記念フィギュア》等の「自分を守れるカード」をつけることで達成を試みた。

それとは別に、《守護されがたきエグザルティウス》以外のカードによるRPを得る手段が求められる。
というのも、《守護されがたきエグザルティウス》達成時には、2種のメタカードを含めても130RPしか入らない。
このRP量は勝ち切るには心もとなく、しばしばRPレースに敗北し得る量なのである。
したがって、エグザルティウスの条件を満たすように種族・属性を整えつつも、各カードがRPを得られるような効果、それもアクションやリバース以外の効果が求められるのである。

今環境で結果を残したエグザルティウスデッキは、この双方を満たしたものばかりである。


【エグザルティウスワンキル】サンプルレシピ

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その中でも一際強烈な印象を残したのは、エグザルティウスの効果のコピーを目的としたタイプのデッキである。
基本セット環境では、(エッグを除いて)得点効果をコピーできるカードは《数学者 マクシミミラン》《ローンウルフ》の2枚のみであった。
これら2枚を両方組み込めばエグゾルティウスも含めて300RPを得られるという、という、単純にして豪快な発想をそのままデッキとして実現したのだ。

このサンプルレシピでは、《プロタ・ゴ・ニズト》《記念フィギュア》をつけることで全体に裏返し対策を付与している。
その上で、《クローガトロン》の効果で《ローンウルフ》にトークンを乗せ、《ローンウルフ》の効果条件をクリアしているのだ。

手札破壊対策は《ヘルベインのぬいぐるみ》で行っている。その上で、仮に《守護されがたきエグザルティウス》が手札から捨てられても、本来《守護されがたきエグザルティウス》をプレイするはずだった枠に《元素の勇者 マダヴィ》をプレイすることで、多大なRPの獲得を狙える構造になっている。

このコンボの決まった時の破壊力はすさまじく、実際に、スタンダード5回戦にて359RPという記録的なスコアも飛び出した。

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とはいえ、ここまでの完成度のデッキは相当噛み合わなければできず、またオールインすぎて、戦略が瓦解した時のリカバリーが難しい。
そのため、エグザルティウス使い達は、もう少し安定を取るデッキの構築を試みた。


【エグザルティウスコントロール】サンプルレシピ

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このレシピでは《水晶の守護者 G-R》《ドジっ子ロボ助手 カスケード》のコンボが導入されている。
《水晶の守護者 G-R》は手札からつけたカードの属性を持つカードを裏返しから守り、《ドジっ子ロボ助手 カスケード》は手札からつけたカードの種族・属性を全カードに付与する。
したがって、同じ属性のカードをそれぞれにつければ、自分のカードが全て裏返しから守られるのである。

このパッケージは様々な点で優秀である。
まず、《水晶の守護者 G-R》《ドジっ子ロボ助手 カスケード》共に☆5であるため、《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》に対して後出しで始動が可能な点だ。
次に、《水晶の守護者 G-R》自体がRP獲得能力を持っている点である。
☆8のカードをつければ16RPと、環境に存在するプレイ効果・アクション効果なみのRPが得られ、RPレースで後れを取らない。

また、《ドジっ子ロボ助手 カスケード》の持続効果が、エグザルティウスデッキには噛み合っている。
持続効果が得点中も機能するか否かは2021年内ではたびたび裁定が変更されていたものの、今回の大会では、一律「得点中も機能する」という裁定で固まっていた。
そのため、《ドジっ子ロボ助手 カスケード》によって付与された種族・属性は、《守護されがたきエグザルティウス》の効果判定にも使用できるのである。
したがって、盤面に全ての種族・属性を揃える必要がなくなり、デッキ構築の難易度が下がっているのである。
むしろ、《水晶の守護者 G-R》《ドジっ子ロボ助手 カスケード》は機械のカード、《水晶の守護者 G-R》《守護されがたきエグザルティウス》は光のカードであるため、このパッケージを導入する場合、この抜け道を使わなければ条件達成が難しくなるという側面もあった。そのため、上記の裁定はエグザルティウス使いにとって追い風となったことだろう。

上記レシピでは、両カードにつけるカードとして、風属性の《スライムレベル 1》《クレメンタイン》が採用されている。
《クレメンタイン》の「このカードの属性と種族に(通常のものに加えて)流通市場のカードの全ての属性と種族を追加する。」という効果は、効果分類が無い効果である(「持続:」等と書かれていないため)。
これを受けて、この効果は、プレイエリアにない場合にも常に働くものという裁定となった。
したがって、得点中や手札にある時はおろか、《ドジっ子ロボ助手 カスケード》につけられている場合にも、流通市場のカードの属性・種族を使うことができるのだ。
元々、流通市場さえ潤沢であれば、《クレメンタイン》1枚で《守護されがたきエグザルティウス》の条件を満たすことも可能なロマンのあるカードである。
そのため、手札破壊などで数枚を落とされても、ゲームの展開次第では《守護されがたきエグザルティウス》を狙えるという点でリカバリー手段として採用されうる。

もちろん、デッキ次第では、《クレメンタイン》をプレイする場合もあり得る。
この場合、《ドジっ子ロボ助手 カスケード》につけるカードを風・地・動物以外にすれば、《クレメンタイン》で得られるRPが20RP以上が確定し、流通市場次第では最大48RPと、《守護されがたきエグザルティウス》のサブプランとして申し分ないクオリティになる。

《スライムレベル 1》は汎用的な手札破壊カードである。
環境にある手札破壊カードでは、《ザ・リングー》と比較されることが多い。
あちらは不確定かつ大抵の場合において1人のプレイヤーにしか影響を及ぼせないのに対して、こちらは全てのプレイヤーの妨害が可能と言う点で強みがある。
特に、《ヘルベインのぬいぐるみ》や《MB限定版ランチボックス》を採用している場合には、自分の効果に対してリアクションを打つことで、自分の手札は捨てなくてよくなるという点でシナジーがある。
汎用的な妨害札兼《水晶の守護者 G-R》用のカードとしては汎用性が高いだろう。
(もちろん、デッキ次第では《ザ・リングー》も採用されうる。)

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と、ここまで良い面ばかり書いてきたが、やはりエグザルティウスデッキは、環境に存在するありとあらゆる妨害の的になる。
手札破壊に始まり、《火炎魔道士 まる》による追加プレイ、《水晶の守護者 G-R》プレイ後に出される《邪悪なるドクター サイ》、そして《影の領域へのチケット》
特に《影の領域へのチケット》に関してはどうしようもなく、相手のアクセサリー枠に見えた時点で《守護されがたきエグザルティウス》の達成は諦めなければならなくなる。
このような環境の事情もあって、多くのエグザルティウスデッキは、エグザルティウスに頼らないでもある程度戦えるように安定感を高める必要があった。


【エグザルティウス軸グッドスタッフ】サンプルレシピ

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このレシピでは《幸運の船乗り》を採用して、手札破壊に強くすると共に、デッキスロットを増やし、対応力を上げている。
また、《スライムレベル 1》の効果を使うことを前提に《恐怖の船長 ベアード》も採用するなど、ややコンボ的要素も加えている。
その上で、相手の妨害手段が無いようであれば、《水晶の守護者 G-R》《ドジっ子ロボ助手 カスケード》にはそれぞれ《都市担ぎの空クジラ》《恐怖の船長 ベアード》をつけることで、《クレメンタイン》のプレイも狙える、というプランになっている。

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ある卓では、《影の領域へのチケット》が見えた上に、《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》のプレイ効果に《ヘルベインのぬいぐるみ》を消費させられたところへアグロデッキの《ザ・リングー》によって《むさぼる者 ソル》が捨てられる憂き目にあった。
そこで《守護されがたきエグザルティウス》の達成は諦め、盤面を厚くすることでRPレースに参戦するという形で対抗し、見事勝利を収めていた。


【プレイ効果軸アグロ】

エグザルティウスデッキに代表されるように、☆が高いカードを軸にしたデッキは、バーニザードをはじめとする裏返してくる妨害への対応を強いられた。
その一方で、別のアプローチでバーニザードに対抗したデッキも環境に顔を出していた。

その一例が、アグロデッキである。
そもそも裏返しがなぜ妨害たり得るかと言うと、裏向きのカードはアクション効果も持続効果もトップ効果も得点効果も使用できないからである。
ということは、プレイ効果を軸に戦えば、各カードをプレイした時点で仕事が終わり、後は裏返されても一向に困らない、という発想である。
また、リバース効果を持っているカードであれば、むしろ裏返された方が嬉しいという逆転の状況にすらなり得る。
この発想を元に強力なプレイ効果・リバース効果を持っているカードで構成したのがアグロデッキである。

アグロデッキの強みは、1枚のカードに依存しないというデッキの構造そのものにある。
手札破壊を受けようが、カードが裏返されようが、「核」が存在しないがために、影響が少ないのである。

また、「裏返し対策」をそもそも考慮しないために、アクセサリー枠に余裕が生まれるという強みもある。
バーニザードデッキもエグゾルティウスデッキも、裏返し対策のアクセサリーが半ば必須であった。
そのため、対策のためにアクセサリー枠1~2枚を割かざるを得なかった。
それに対してアグロデッキは、攻撃的なアクセサリーでも、得点のためのアクセサリーでも、任意の物を2枚搭載できるのである。
この利点のおかげで、バーニザードデッキやエグザルティウスデッキにはない得点力を生み出し、RPレースで有利になりやすかったのだ。

RPレースに関しては、シングルの枚数でもアグロデッキに分がある。
例えばバーニザードデッキでは《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》1枚と得点札5枚がプレイされる。
それに対して、アグロデッキでは、6枚の得点札がプレイ可能である。
この1枚分の得点力のアドバンテージは、この環境のバーニザードデッキでは覆しがたく、アグロデッキが有利を取れたのである。


【プレイ効果軸アグロ】サンプルレシピ

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分かりやすく得点力の高いカードが詰め込まれているリストである。
《破滅の布告者 ユルガトロクス》や(このリストでは入っていないが)《大砲技師 メリル》は、得点前に裏返せば、プレイ効果による莫大なRPのみが残る。
《トリアージナース イリヤ》は☆6であり、バーニザードの効果の対象内だが、プレイ効果のみを当てにするならば20RPと高威力だ。
表向きで残ってしまったカードは《ドリアード フローリアン》で全て裏向きにしてデッキケース《灯火管制》の得点力を上げる、というコンボも仕込まれている。

アグロデッキはカード同士のシナジーをそこまで強く考えなくて良いため、構築の自由度が高いのも魅力的だ。
妨害カードを入れても良いし、有効な状況が限られる強いカードを入れても良い。
作り手の個性が色濃く出るのが、感染する側としても楽しいところだ。

このリストでは《ザ・リングー》を汎用的妨害カード兼得点源として採用している。
《ザ・リングー》はカード名を指定し、そのカードが相手の手札にあれば捨てさせるという、この環境で随一の性能を持つ手札破壊カードである。
多くの場合デッキケース・アクセサリーや1枚目のプレイから相手のデッキタイプが分かるため、キーカードを破壊しつつRPを獲得できる、という、ただ強カードなのである。

《火炎魔道士 まる》はエグゾルティウスデッキをはじめとするコンボデッキへの対策として有用である。
疑似手札破壊に比べて全プレイヤーの盤面に触れ、おまけとしてRPまで得られるという、アグロデッキのための妨害カードの見本のような存在だ。
特にアグロデッキでは自分の場に裏向きのカードが多くなりやすいため、得点力も上がりやすく、相性が良いのだ。

《酔えば酔うほど飲む モリシン》はバーニザードデッキへのピンポイントメタのような起用だが、アグロデッキの枠の自由さゆえのオシャレな1枚だ。
《酔えば酔うほど飲む モリシン》のプレイに反応して《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》のトップ効果が反応し、そのトップ効果に《酔えば酔うほど飲む モリシン》のリアクション効果を発動すれば、ただで30RPが手に入るのである。

アクセサリー枠の2枚として、このリストではミレニアムアクセサリー2枚を採用し、さらに得点力を高めている。
ミレニアムアクセサリーのプロモは、《千年バイク》という妨害への万能対策カードが含まれているが、それ以外のカードは他のデッキには使用しづらく、(2021年環境のランダム合成ルールの)プロモ合成の魅力がやや落ちる。
その点、アグロデッキは相手への対応などを切ってもある程度動けるため、このような思い切ったカードの起用が可能となるのである。

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【ゼン・マーセナリー・コンボ】

以上3つのデッキタイプが、トーナメントシーンの主流なデッキタイプである。
しかし、主流なデッキタイプがあれば、相対的にマイナーなデッキタイプが生まれる。
その中には、条件次第では爆発的な力を発揮するデッキ、いわゆる地雷デッキもあった。

《ゼン・マーセナリー》を使用したコンボデッキもそのうちの1つだ。

《ゼン・マーセナリー》は毎ターンのアクション権を使用して、RPを得るデッキケースだ。
通常であれば、6回のアクションを行って42RPを得ることになる。
この上限回数を、《キャプテン・タイトパンツ》の効果でアクション回数を増やすことによって、その分得点力を伸ばすのである。

《キャプテン・タイトパンツ》自体は☆6であり、《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》の妨害をもろに受ける。
しかし、実は環境的には、警戒すべきカードは《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》程度なのである。
バーニザードデッキが環境に席巻していたため、他のデッキの多くは裏返し対策を講じることになった。
その結果、相手のカードを裏返すカードが、相対的に効力を失ってしまったのである。
実際、上記3種のデッキを見ても、相手のカードを裏返すカードが《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》を除いて採用されていないように、バーニザードの効果さえしのげば、《キャプテン・タイトパンツ》がプレイエリアに表向きのままで残り続けることも可能なのである。


【ゼン・マーセナリー・コンボ】サンプルレシピ

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このような環境を逆手に取ったデッキの極地が、このレシピのような、《キャプテン・タイトパンツ》の効果に特化したデッキである。

《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》の効果を《カードスリーブ》でしのぎ、《キャプテン・タイトパンツ》の効果を《ウォルシュ》で使い回すのが基本のコンセプトである。
《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》がアクション効果で《キャプテン・タイトパンツ》を裏返しに来た場合、《13番目の男 あんがす》《キャプテン・タイトパンツ》を回収して今度は悠々とプレイする、というプランもある。
さらに、バーニザードデッキがない場合には、《炎の生誕 レッドエッグ》によって《キャプテン・タイトパンツ》をさらに使う、というルートまで用意してある。

《違いのわかる男 ケンタ》は、《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》が居座った盤面で《キャプテン・タイトパンツ》を再度プレイできない場合に、ショップから3枚目の《ウォルシュ》を探すために採用されている。
運次第であり、大抵の場合は空振りをすることにはなるが、それでも40RP程度は稼ぎ出すため、単純に強いカードとして運用できるのも良い。

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実践では、実に《ゼン・マーセナリー》の効果が18回も発動され、342RPを稼ぎ出した。
《13番目の男 あんがす》によるRPも含めれば合計366RPという結果になり、あの【エグザルティウスワンキル】をもしのぐ、すさまじい爆発力を示した。
正に、地雷デッキである。

このレシピでは採用されていないが《風の生誕 イエローエッグ》を採用して《ウォルシュ》をコピーする方法もある。
この場合、3枚目の《ウォルシュ》として使用する方法と、2枚目の《ウォルシュ》として使用する方法がある。
3枚目の《ウォルシュ》として使用する場合は《ゼン・マーセナリー》の発動回数が1回増え、追加で38RPを得ることが出来る。
一方、2枚目として使用する場合、《カード修整マーカー》の分、他のアクセサリーを採用できるようになり、対応力が上がる。
特に、《ダブルプラチナ・プレミアスリーブ》などは、《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》のアクション効果対策と、《13番目の男 あんがす》で回収した《キャプテン・タイトパンツ》をプレイする際の《バーニザード EX オメガ -リボルバー- J》のトップ効果対策を兼ねられるため、愚直なように見えて、安定感が非常に高くおすすめである。

なお、《千年ゲームボード》《カード修整マーカー》を採用すれば、《キャプテン・タイトパンツ》《炎の生誕 レッドエッグ》《ウォルシュ》《ウォルシュ》《風の生誕 イエローエッグ》《13番目の男 あんがす》《キャプテン・タイトパンツ》回収)《キャプテン・タイトパンツ》の順でプレイでき、《ゼン・マーセナリー》の発動回数は実に21回、462RPを稼ぐことが可能となる。
とはいえ、アクセサリー枠を完全につぶすことになり、裏返し効果を含む全ての妨害に対して無力になるため安定しないし、環境にそれほど大量のRPを稼ぐデッキは存在しないため、ロマンコンボの域は出ないだろう。
ロマンを追い求める読者諸氏は是非挑戦してみてほしい。


【大魔道士バーン】

最後にもう一つデッキを紹介しておこう。
それが【大魔道士バーン】である。
まずはサンプルレシピを見てほしい。


【大魔道士バーン】サンプルレシピ

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……いかがだろうか?
デッキレシピに「適当なカード」という記載など、ありえるのだろうか?

あり得るのだ。
【大魔道士バーン】にのみ、あり得るのだ。

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このデッキは、最初のターンに《大魔道士を継ぐもの カナミ&チック》をプレイし、手札全てを入れ替えるという動きをする。
《大魔道士を継ぐもの カナミ&チック》は強制的に全ての手札を吹き飛ばすため、有用そうなカードを入れても、そのカードも吹き飛ぶ。
したがって、本当に(シングルでさえあれば)「適当なカード」で良いのだ。

《大魔道士を継ぐもの カナミ&チック》は効果で引いたカード1枚につき7RPを得る。
《蒸気仕掛けのターボジェット》《ブランドカードバインダー》でデッキサイズを増やし、12枚のカードを捨てて84RPを獲得し後は逃げ切ろう、というデッキなのである。

引いたカードは自由にプレイできることに加えて、12枚も選択肢があるので、それなりにRPを得ることはできるだろう。
しかし、やはりランダムにカードを加えるという性質が枷となり、安定性はとても低い。
84RPというRP量も、それのみで逃げ切れるほどの量ではなく、引いたカードとプレイングによってカバーするしかない、非常に厳しいゲームに晒される。

しかし、だ。
その点にさえ目をつぶれば。そう、目をつぶれれば。
これほどプレイしていて楽しいデッキはないだろう。

基本的にミレニアムブレードでは、トーナメントが始まれば自分のコンボを通す殴り合いになり、臨機応変なプレイは、そこまで多くは求められない。
一方で【大魔道士バーン】にはこの臨機応変さが求められ、ある意味で最も「カードゲームらしさ」を楽しむことができる。
たまには運の奔流に身を委ね、自らの技量で流れを切り開く体験をするのも良いだろう。

と、この環境では微妙な評価の【大魔道士バーン】であったが、実は次の環境では一躍脚光を浴びることになる。
セットローテーションで追加された《遥かなるカードゲーム》とミニ拡張4で追加された《エルドリッチ・ファッションリング》のせいである。

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【大魔道士バーン(セットローテーション環境)】サンプルレシピ
《大魔道士を継ぐもの カナミ&チック》
《恐怖の船長 ベアード》
《ベニー》
適当なカード11枚

《遥かなるカードゲーム》
《ブランドカードバインダー》
《エルドリッチ・ファッションリング》

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《エルドリッチ・ファッションリング》の登場によって、デッキサイズをアクセサリー枠でさらに3枚増やすことが可能になった。
さらに、《遥かなるカードゲーム》が《大魔道士を継ぐもの カナミ&チック》の亜種効果を持っているため、カード枚数とRP量のブーストが可能になったのである。
《遥かなるカードゲーム》は捨てるカードを任意で選べるため、《大魔道士を継ぐもの カナミ&チック》を手札に残しつつ引き直しができる点が非常に優秀である。
また、「カードを捨てる」処理をするので、《恐怖の船長 ベアード》《ベニー》のように、手札から捨てられた時に発動する効果との相性も良い。

《遥かなるカードゲーム》は捨てたカード枚数×4RPを得るので、52RPを得ることになる。
その後、《大魔道士を継ぐもの カナミ&チック》をプレイすれば、17枚のカードを引きつつ、119RPを得られる。
合計すればデッキケース1枚とシングル1枚で171RPを稼ぎ出しており、逃げ切るには十分な量になるのである。
もちろん、引いたカードによるさらなる得点も可能だ。

なお、余談であるが、通常「バーンデッキ」と言えば、相手のRPに直接ダメージを与えるデッキを意味する。
しかし、【大魔道士バーン】はそのような攻撃的なデッキではない。
《大魔道士を継ぐもの カナミ&チック》でバーン!とRPを稼いで逃げ切る、というコンセプトから来ている名前なのである。
大魔王からは逃げられないが、大魔道士は逃げ切るものという、なんともオシャレなデッキネームだ。


次なる環境

いかがだっただろうか。
ここまでが基本セット環境における大会環境である。

この翌年にはセットローテーションの日本語版が発売され(編集者注:この世界線での歴史です)、大きく環境が変わることとなった。
《ワイルダー・スピーダー》と《マックス・ベータ》のコンボや、悪名高き《ベンヴィア・マールグローブ》の登場、さらにミニ拡張4での《影の女司祭 オレラ》の存在。

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来年2122年のミレニアムマスターズリーグがどのようなレギュレーションになるかはまだ分からないが、2022年環境でプレイしたい諸氏には、ハウスルールでの適切な禁止レギュレーションの導入をオススメしておこう。

それでは来年のミレニアムマスターズリーグでまた会おう!
来年のミレニアムチャンピオンは君かもしれないのだから!

おわりに

ボドゲ紹介 Advent Calendar 2021の1日目でした。
明日はちとさんの「ボードゲームマラソンのススメ」が予定されています。 明日の記事もお楽しみに!